はじめに
2024年7月3日、日本銀行は新しい日本銀行券(F券)の発行を開始しました。
本記事では、新紙幣の詳細や特徴、そして導入に伴う課題について解説します。
各金種の詳細データ
新紙幣(F券)は以下の3種類が発行されました:
1. 1万円札
- 肖像:渋沢栄一(1840~1931)
- サイズ:縦76mm×横160mm
- 特徴:「日本資本主義の父」と呼ばれ、500以上の企業設立に関与した実業家
2. 5000円札
3. 1000円札
F券の特徴
偽造防止技術
F券には、最新の偽造防止技術が採用されています:
- 深凹版印刷:インキを高く盛り上げる印刷技術で、触るとざらざらした感触があります。
額面数字や識別マークに使用されています。
- 高精細すき入れ(すかし):従来の肖像のすかしに加え、背景に高精細なすき入れが施されています。
- すき入れバーパターン:縦棒状のすき入れで、券種ごとに本数が異なります。
- ホログラム:世界初の銀行券への搭載技術で、肖像が三次元に見えて回転するほか、肖像以外の図柄も見る角度によって変化します。
- 潜像模様:傾けると、表面は額面数字、裏面は「NIPPON」の文字が浮かび上がります。
- パールインキ:傾けると、左右両端にピンク色の光沢が見えます。
- マイクロ文字:虫眼鏡などで見ると、コピー機では再現できないほど小さな「NIPPONGINKO」の文字が確認できます。
- 特殊発光インキ:紫外線をあてると、日本銀行総裁の印章や模様の一部が発光します。
その他の特徴
- 記番号の形式:アルファベット4文字とアラビア数字6桁を組み合わせた形式(例:AB123456CD)
- 印刷位置:左上と右下の2か所
- ユニバーサルデザインの採用:数字のサイズ拡大や金種ごとの色合いの差別化など
E券からの進化
F券は、E券から以下の点で進化しています:
- 偽造防止技術の向上:より高度な技術が導入されています
- 肖像画の変更:新たな歴史的人物が採用されました
- ユニバーサルデザインの強化:識別マークの改良や額面数字の大型化など
ただし、サイズや厚みは変更されていないため、既存の紙幣処理機器でも対応可能な場合があります。
券売機等での対応状況と課題
新紙幣の発行に伴い、券売機やATMなどの現金処理機器の更新が必要となりますが、多くの事業者が対応に苦慮しています。
高コストの問題
券売機の更新には高額な費用がかかることが大きな課題となっています:
- 1000円札のみに対応した券売機の更新費用:約70万円
- 5000円札や1万円札にも対応させる場合:約100万円
ATMの新紙幣対応にかかる総コストは、全体で約3,709億円と推定されています。
対応の遅れの理由
- 高額な更新費用:特に中小事業者にとって大きな負担となっています。
- 補助金の不足:国からの特別な支援策がほとんどないため、事業者が自己負担で対応せざるを得ない状況です。
- 技術的な制約:新紙幣のサンプルが限られており、十分な検証が難しい場合があります。
まとめ
2024年7月に発行された新紙幣(F券)は、高度な偽造防止技術を採用し、日本の経済史に重要な貢献をした人物を肖像画に採用しています。しかし、その導入に伴う現金処理機器の更新には高額な費用がかかり、特に中小事業者にとって大きな負担となっています。
国や自治体からの支援が限られている現状では、事業者自身が費用対効果を慎重に検討し、段階的な対応や代替手段の導入を考える必要があるでしょう。同時に、キャッシュレス決済の普及も視野に入れた長期的な戦略が求められます。
新紙幣の円滑な流通のためには、官民一体となった取り組みと、中小事業者への適切な支援が不可欠です。今後の動向に注目していく必要があります。
出典:国立印刷局ホームページ(https://www.npb.go.jp/product_service/intro/kihon.html)